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lily vol.6
「勅使河原先輩」
廊下の向こう端に、幻のように沙耶が立っていた。
「小田桐さん……どうしてここに?」
ぼんやりと呟く。
「写真部だって、この前おっしゃいました」
おかしそうに笑いながら、沙耶が廊下を渡ってくる。階下から時折吹き上げる風に、制服のスカートの裾がはためいた。
「職員玄関に飾ってある桜の写真、あれ、勅使河原先輩の作品なんですね。私、いつもそれを見ていたから……お名前になんとなく聞き覚えがあって」
「ああ……」
そういえば、昨年なにかの賞をもらって掲示された覚えがある。
「でも、それがどういう……?」
「もう!」
頬を少し膨らませて詰め寄ってきた沙耶がこう言うまで、私には信じられなかったのだ。
「私の写真、先輩に撮ってほしいんです!」
桜と一緒に、というのは沙耶からの希望で、私達は連れ立って、桜の多い裏庭へと向かった。盛りを少し過ぎた花は、重たげな梢の先からはらはらと降り、手入れの行き届いた芝生に波のような模様を描いている。
「綺麗……」
放心したように呟く横顔にピントを合わせると、沙耶は慌てて手を振った。
「ポ、ポーズとか、ないんでしょうか」
「どっちかというと、普通にしててほしいかも……」
「普通にするって、難しいですね」
少し汗ばんだのか、ハンカチを取り出すと、沙耶は顔に押し当てた。
「……お願いします」
紅潮した顔に、きっぱりとした微笑が浮かぶ。
私はゆっくりとカメラを持ち上げると、沙耶をフレームの中に収めた。
July 18, 2004 in lily_百合編 | 固定リンク
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