薔薇と百合の狭間に咲く花の香り

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lily vol.12

「沙耶」
咄嗟に伸ばした腕に、一瞬遅れて沙耶の指が届く。
絡ませた指は二人分の体重を支えきれず、もつれるようにぬかるんだ地面に倒れこむ。
脛から伝わる泥の冷たさ。濡れた制服の重み。
見つめ合った顔に散った飛沫。

「もう……どうなってるんでしょう」
くすり、と沙耶が笑った。
「ごめんなさい、支えきれなくて」
「謝らないでください」
不意に沙耶の顔が近づく。吸い込まれそうな黒い瞳に、呆けたような自分の顔が映る。
叩きつけるような雨の中で感じる小さな熱。

(この思いの先にある、未来はどんなものだろう?)
未来などなくてもいい。
明日だって来なくていい。
沙耶の髪に頬を寄せると、雨の匂いに混じって微かに花の香りがした。

「……制服、クリーニングに出さないと駄目ね」
「弓道部に余分なジャージ置いてありますけど、繭先輩も着ませんか?」
「え、ほんと?急いで行こ」
走り出す沙耶の後姿を追いながら、私はぎゅっと目蓋を閉じた。
心の中の印画紙に、永遠に焼き付けるように。

August 7, 2004 in lily_百合編 | 固定リンク

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