« lily vol.9 | ■トップページ■ | lily vol.10 »
rose vol.10
錆びたワゴンに載せたポットが、電子音で沸騰を知らせる。
午前3時。ケイからの連絡はない。
引き出しから紅茶の缶を取り出すと蓋を開けた。ふわりと薔薇にも似た香りが広がる。
(あ、俺コーヒーだめ。紅茶にしてくれる?)
(意外と可愛いところ、あるんですね)
いつかの朝の光景が脳裏に甦る。
まるで違う世界のように。
「ケイ」
俺は彼の何をわかっていたのだろう?
雨音の合間から、砂利を踏む音が微かに聞こえ、扉が向こうから引き開けられる。
「ナオさん……待っててくれたんですね」
白みかけた空が、ケイの顔をぼんやりと照らし出す。濡れたシャツと、雫の落ちる髪と、少し腫れた頬と。
何も言わず抱きしめると、少し遅れて腕が背中に回される。
「心配かけて、本当にすみませんでした」
伝えたいことはいくつもあったはずなのに、言葉にならない。
「……ナオさん、紅茶の匂いがします」
耳元でケイが呟いた。
August 2, 2004 in rose_薔薇編 | 固定リンク
トラックバック
◆rose vol.10用のトラックバックURL:
http://www.typepad.com/services/trackback/6a00d8341bfbdf53ef00d8350690c653ef
◆トラックバックしてくれた記事一覧: