刺激ビリビリ(The Biribiri Fantasy)

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アニメ制作における製作委員会方式の意外な弱点

うちの福原に薦められた『じゃ、やってみれば』読了
・・・というか後半は飛ばし読み(ごめんなさい!)

内容は、映像制作会社「ROBOT」の創業者で『ALWAYS三丁目の夕日』シリーズなどの
ヒット映画プロデューサー・阿部秀司さんによる“映画プロデューサーについて”。

 

書かれていることはコンテンツ業界におけるプロデューサーとして
すごく正しいことばかりだが、個人的にはちょっと当たり前な話ばかりで
物足りなく感じた。
それは僕がすでにエンターテイメント業界に20年近く居るから
ということではなく、おそらくこの業界で制作として働く人たちが
まず1年生のときに諸先輩方から教わるような、随分昔に聞いたことがある
プロデューサー論ばかりだったから。

加えて、書き方があくまでも自身の仕事の“回顧録”のような主観的な表現だったり、
プロデューサーとしての個人的な美学やこだわりを紹介している内容で
説明があまり論理的ではなく、自己分析して一般論にまで昇華させていないので
“ビジネス書”としてはちょっと読み応えが薄く感じた。
(元コピーライターの方だということだが、コピーライターさんは
 同じ「もの書き」の中でもあまり理系的な発想ではない方が多い
 ということだろうか?)

上記2点から、『ALWAYS三丁目の夕日』など阿部さんの作品のファン向けな本、
もしくはこの業界の新米プロデューサーの教科書としては良いのかもしれない。


ただ、そこから個人的に深く考えさせられたことが2つ。

ひとつは、僕がこれを「当たり前」だと思える環境でクリエイティブ活動を
してこられたというのはすごく恵まれたことだったのかもしれない、ということ。
キー局のテレビ番組(僕が経験してきたのは主にバラエティ番組と情報番組)の
制作現場というのはシステムとしてすごく成熟していて、
「営業」と「制作」がきっぱりと分かれている。

そして基本的に営業Pと制作Pは対等な関係性、場合によれば制作Pの方が
立場が強くて、きちんとクライアントから提示された条件は守りつつも
番組内容には不用意に口出しさせない環境になっている。
全てを出資者に都合良く作ってしまうと『ショップチャンネル』のような
番組ばかりになってしまうためだ。
つまり、スポンサーのビジネス的な損得や政治が番組内容に極力影響を
及ぼさない構造になっている。
(もちろんあくまで相対的な話で絶対に無いわけではないけれど)

そして、制作のプロデューサーというのはほぼ100%クリエイティブ上がりなので、
この本に書かれていることを当たり前のように実践しているか、仮に出来ていない
ポンコツPだとしても最低限「知識」としては知っている。

それがユーザーにとって有益なコンテンツを作るためには極めて合理的で
当たり前の制作環境だと思っていたが、これはとても恵まれた環境だったのかもしれない。

今、アニメは映画同様「製作委員会方式」で製作されることが多いが、
映画よりもその歴史が浅いためかあまり上記の“棲み分け”が
きちんとされていないように感じる。

製作委員会のプロデューサーというのはあくまで各出資会社の「窓口」的な
担当者であることが多くて、クリエイティブ経験がある人なんてまずいない。
そして製作委員会方式でリスクが少なく出資参加出来るようになった近年、
どの会社も全体的に出資案件が増え、必然的に経験が浅く
若いプロデューサーも増えることになる。
テレビ番組制作とは異なり、この本に書かれていることを当たり前に
御存じないプロデューサーが多数、プロジェクトに参加しているという
体制になっている。


ビジネス的には優秀だとされているこの「製作委員会方式」だが、
ことクリエイティブにとっては、それだけクリエイティブに理解の浅い
プロデューサー陣を複数相手にしながらモノ作りをするということになり、
なかなかユーザーを満足させられるものを作りづらい環境なのではないかと思う。

現にどうだろうか、製作委員会方式が一般化して以来、
コンテンツ自体の数は増えたものの、「名作」が生まれる割合は
ずいぶんと下がってしまったのではないだろうか?
良い作品が生まれるのは、製作委員会と対等かそれ以上に強い立場で
発言できるクリエイターが中心に作られている時が多いのではないだろうか。
(このへんはキチンとリサーチを取ったわけではないので感覚論です)

そんな製作委員会方式の大きな弱点が自分の中で浮き彫りになった気がした。
そして、クリエイティブ経験の無い若いプロデューサーたちには
ぜひとも読んでいただきたい一冊であると感じた。

 

もうひとつは、きっと僕も時間が無い中で急いで書いた文章には、
きちんと自己分析して一般論にまで昇華させることができず、
自分の作品のファンやこういう仕事を目指す人にしか有益性の無いものが
多かっただろうなぁ、という、自分の過去を振り返った反省。
主に個人ブログやTwitterのことなのでお目こぼしをいただきたいところだが、
せっかく書くのならきちんとそこまで練り上げてから毎回掲載できたら
良いなぁとしみじみ感じた。

http://www.amazon.co.jp/%E3%81%98%E3%82%83%E3%…/…/4534049102

January 9, 2015 | 固定リンク | (このエントリーを含むはてなブックマーク)

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