刺激ビリビリ(The Biribiri Fantasy)

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『ひもてはうす』制作後記(1)〜15分ワンクールで最大限のインパクトを目指す〜

10月から放送されましたアニメ『ひもてはうす』の放送が昨年末で終了いたしました。

応援してくださった皆様ありがとうございました。

最終回放送後、弊社の年末恒例イベント・バウンスィ忘年会や「あきばぽっぷかるちゃーフェス」の出店ブースで何人かのファンの方々とお話しさせていただき、他の皆様にも感謝の気持ちと制作裏話をお伝えしたいと感じました。

 

いつもならこういう裏話は忘年会イベントでがっつりお話しするところですが、昨年末は最終話直前までアニメ制作に追われてしまっていたせいで忘年会イベントの準備が例年よりも後回しになってしまい、いつも司会をしてくれる平間を始め参加できないスタッフが多かったこともあり、制作裏話のトークショーというよりは打ち上げのような本当に忘年会的な内容となりました。

 

もうすこし『ひもてはうす』のことをしっかりお話ししたかったのですが、僕自身終わった直後でまだランナーズハイのような興奮状態だったため、人前で話すのはちょっと落ち着いてからの方が良いかな?と深入りするのを避けていたところもあったので、今回僕の個人的な想いをこちらに書かせていただくことにしました。
なお、もっと細かい各セクションごとの制作裏話はBlu-ray各巻にスタッフコメンタリーとして収録される予定ですので、そちらもお楽しみいただけましたら幸いです。

『ひもてはうす』の成り立ちやキャスティングについてはこれまでにもお話しさせていただいたので、ここではそれ以外のお話です。

 

制作にあたってまず最初に悩んだのは、これだけVtuber全盛の中、アドリブ部分がメインに見える構造はユーザーも食傷感を覚えるのではないか?ということでした。

とはいえこれだけ達者な方々にご出演いただいてアドリブパートをやらないというのはとても勿体ない話です。

そこで、序盤はアドリブパートを少なめにしてまずきちんと「普通のギャグアニメとしても楽しめる構造」を作り上げて、中盤からアドリブパートを増やしていくことにしました。

世界観とキャラを確立してからアドリブパートを増やせば、このタイプの作品に初めて触れる人でも受け入れやすい構造になるのではないかと考えました。

これまでと比べてメインキャラが多いこともあり、いつもなら3話くらいから崩し始めるところを今回は丁寧に5話まで粘って作品世界を構築してみました。

『gdgd妖精s』や『てさぐれ!部活もの』など、これまでの作品をご覧くださっていた皆様にはスタートダッシュにやや物足りなさを感じさせてしまったかもしれません。

 

逆に後半は思い切ってそれを取り返すべく、むしろいつも以上に賛否が分かれるような挑戦をすることにしました。一度に全員を満足させることは諦めて毎回誰かの「神回」になることを目指しました。

そしてその中間にあたる第6話で一度「最終回」のような良い話を入れて区切りを作ることにしました。

丁寧な前半、最終回、挑戦的な後半・・・つまり一般的なアニメ2クール分の内容を無理やり1クールにねじ込んだ形になっています。

低予算ながらスタッフたちが愛を持って丁寧に作った第1期が一部の人たちに評価され、最終回にほんのり感動し、待望の第2期で「あれ?なんか思ってたのと違う方向にパワーアップしてる!」っていうギャグアニメあるある(?)を1クールに詰め込むという、我ながらクレイジーな作戦でした(笑)

 

今回このような作戦を選んだ理由は2つあります。
ひとつは、これまでの作品を見てくださっている人たちにはどうしても『てさぐれ!』と比べられてしまうことになるかと思いますが、『てさぐれ!』は『すぴんおふ』を含めて3シーズンもやっていて、最終的にはだいぶめちゃくちゃなことまでしちゃっている、ということ(つまり15分1クールでは満足度として勝負にならない)。

そしてもう一つは、女性を含む新規ファンの獲得を目指していたのですが、前半の丁寧な作りのまま全編ではパッケージを買いたいと感じてもらえるところまでは連れて行けない、と考えたためです。

(正確に言うと、それだったらもっと画に時間と労力をかけてちゃんと映像で勝負できる作品にしなくちゃいけない、です)

 

そんな理由から、今回はシリーズの前半と後半で大きな緩急をつける、というのが構成上のテーマとなりました。

 

そしてそれを締めくくる12話の最終回ですが、今回はあえて大きな花火は打ち上げない、という作戦を選択しました。

きっと『てさぐれ!』や『直球表題』のような分かりやすい大円団(?)の方がパッケージの売り上げ的には手を伸ばしたいと感じていただけるのではないかと思いますが、今回は「結局いつもどおり」を見せて終わることで「今も中野のどこかで彼女たちの共同生活が続いているのかもしれない」と感じていただけるような、作品としての「普遍性」を持たせたかったためです。

 

ひもてはうす住人一同はてさぐり部員たちのようなロックで破天荒な若者たちではありません。

ちょっと変わっているけれど基本的には幸せになることをぼんやり夢見る(異能以外は)どこにでもいる普通の成人女性たちです。

それを最後に感じてもらえたら良いな、と考えました。

なのでちょっと珍しい終わり方かもしれませんが、当たり前のように居たあの子たちがいつのまにか見えなくなってじわじわロスを感じることで、「ロスとの共存」みたいな感覚を読後感に添えられないかと思い、バースデーパーティーとパーティーゲームをして終わるという形にしてみました。

 

もしかしたらこれは個人的に昨年母が他界したことも影響しているかもしれません。

 

ちょっと長くなってきたので、続きはまた次回!

January 3, 2019 | 固定リンク | (このエントリーを含むはてなブックマーク)

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  • 石ダテ コー太郎
    芸人、放送作家を経て、現在の主な仕事はアニメ監督やニコ生番組の演出。

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