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『ひもてはうす』制作後記(3)〜キャララジオの誤算〜
アニメ『ひもてはうす』を応援してくださった皆様への感謝の気持ちと制作裏話、続きです。
さて、ここまでお読みいただいてお気付きの方もいらっしゃるかと思いますが、前回までご説明させていただいたところでは、今回の『ひもてはうす』はこのスタイルのアニメを少しでも多くの新規ユーザーさんにお楽しみいただけるようにという工夫を試行錯誤しておりますが、実はこの段階では一番大切なコアユーザーさんをちょっと置いてきぼりにしてしまっているところがあります。
キャスト的にドリームチームではありますがパジャマパーティーという名のアドリブパートに割く時間は控えめですし(特に序盤)、新しいお遊び要素としてちりばめたミステリー要素も琴線に触れない方でしたら「放送前から期待させるだけさせておいて、なんだか寸止めだ!」とお感じになる方も多いことでしょう。
そんなコアユーザーさんたちにご満足いただくために今回ご用意していたのが「イベント」、「キャララジオ」、「パッケージ特典PPPオーディオCD」の3つでした。
オリジナルアニメの放送前にできるイベントなんて一般的には「上映会」くらいではないかと思いますが、『ひもてはうす』では作品性を生かしておそらくよそではあまり見られないであろうイベントをいくつか開催してきました。
そちらは新規ユーザーさんよりもコアユーザーさんたちの方がすっとお楽しみいただけたのではないかと思います。
また、『てさぐれ!部活もの』というシリーズではキャストがキャラ名で毎週ラジオ番組をお送りし、視聴者からは「ラジオが本編だ」との評価をいただきました。これを本編よりも長い尺で放送し、しかもその番組内で本編の未公開PPP音声まで聞くことができれば本編だけでは不完全燃焼だったコアユーザーの皆様を満足させられるのではないかと考えました。
さらにパジャマパーティーは放送話数に対して倍近く収録しておりましたので(全部で20本以上)、それをオーディオCDの容量いっぱいまで収録してパッケージ特典にすればとても満足度の高いものになるのではないかと考えました。
コアユーザーの皆様には本編の後にこの3段階をご用意することによって、幅広い新規ユーザーとコアファンの皆様をひとつのコンテンツで同時に楽しませる構造を作り上げたつもりだったのですが・・・ここで大きな誤算がありました。
実は今回、ラジオ番組を文化放送A&G+さんで放送するにあたり、番組制作を文化放送さんに委託することになりました。
文化放送さんで放送したのは先にご説明させていただきましたとおり、「これまでよりも一歩普通のアニメに踏み込む」という戦略のためです。
(おかげさまでアニメ本編放送前に先行放送した『ぐいぐいプレゼンラジオ』は期待以上の素晴らしいPRラジオ番組に作り上げていただきました)
その現場において僕はアニメ本編の監督であり、制作発注元の役員です。
つまり僕自身がそのラジオの構成・演出をしてしまうととてもややこしいことになってしまいます。
とはいえアニメ本編の温度感を知っている人が制作チームに入っていないと不安だったので、アニメ本編メンバーでもある後輩作家の曽我くんに構成をお願いすることにしました。
僕の立ち位置は曽我くんのフォロー、「構成監修」ということになります。
そして「誤算」というのは、一般的なラジオ番組とこれまでに僕が作ってきたキャララジオではその制作方法にとても大きな違いがあった、ということです。
一般的なラジオ番組は「パーソナリティの生の状態をお届けする」ということにもっとも大きな重心を置いているのだそうです。
たとえ生放送でなくとも30分の番組は30分、長くても32〜33分程度で収録することが美しく、「ラジオのあるべき姿だ」とされているようです。
音楽を乗せる以外はできるだけ編集をせず、台本には最低限の進行しか載せず予定調和を悪とし、等身大のパーソナリティとゲスト、リスナーのメールが純度の高い状態で混じり合い化学反応を起こすことが目指すべきゴールだ、というという制作理念を感じました。
一方僕が作ってきたキャララジオは、20分の番組を40分収録し、かけあいの間を細かくつまんでがっつり全体のテンポアップし、リズム感が良くなるように言葉の文節単位でカットし、聞いていてどんどん入り込めるようにコーナーやメールの順番も自由に入れ替え、場合によって他の回からトークを持ってきて全体が気持ち良く盛り上がるように調整し、必要ならば編集点を気にならせないようにするためにリアクションや笑い声も足していました。
普通のラジオやバラエティ番組では「やらせ」としてアウトなラインですが、「そのためのキャララジオだから」という名目のもと、徹底的にアニメ本編のアドリブパートを再現することにこだわりました。
(僕が降板した後も、僕のやり方をよく知るミキサーの常川くんがこれを踏襲して作ってくれていました)
もし『てさぐれ!ラジオもの』が無かったら『てさぐれ!部活もの』にはそこまでハマっていなかった、という方は多いのではないかと思います。
「ラジオが本編」というのは本当にその通りで、僕はアニメ本編を気に入ってくれた人ほぼ全員が楽しめる構造になっているラジオ番組(によく似た何か)を作っていたわけです。
おそらく特に意識して作っていたわけではなく、どちらも並行して音声編集していたため自然にそうなっただけだろうと思いますが(笑)
(それ以外にも、必ずキャストが4人以上いる状態にするとか、スタッフいじりを敢えてカットしないことでリスナーにアニメ本編よりもひとつ作品の内側に入った感覚を味わってもらう、なんていう要素もあっただろうと思います)
先にご説明したようにこれまで僕は「アニメのふりをしたバラエティ・コント番組」を作ってきたわけですが、実はラジオに関しても「ラジオのふりをしたバラエティ・コント番組」の構造だったのです。映像が無いから気がつきにくかっただけで。
こんなものは本物のラジオを作っているプロの方々にお願いして作れるものではありません。
『北の国から』のドラマチーム本体に「とんねるずの『北の国から』コントを作ってくれ」と言うようなものですから、むしろ大変失礼な話です(例えが古くてごめんなさい!)
キャストも文化放送制作スタッフさんたちもとても真摯に面白いラジオ番組を作ってくださいました。アニラジとしてはもう120点です。
しかし、アニメ本編で少々不完全燃焼だったコアユーザーさんたちにとって必要だったのは(あくまでその人たちを満足させるためという意味では)「アニメとアニラジ」の関係の番組ではなく、「こっちが本編」と揶揄されるような「アニメ本編の延長戦」で、料理で言えば「メインディッシュ」にあたるものだったのです。
今回のキャララジオはそれとはベクトルの違う「ちゃんとラジオ番組として面白いもの」であって、アニメ本編から見れば「サイドディッシュ」的なスピンオフ番組になっていた、ということです。
文化放送さんで流れている分にはとても魅力的で面白いラジオなんですが、ニコ生で本編と段積みで流すにはちょっと違和感を感じさせてしまう番組になってしまいました。
これは大きな大きな誤算でした。
結果として(こんなキワモノコンテンツなのに)プロジェクト全体としてコアユーザーさんより新規ユーザー&ライトユーザーさんの方に傾いた不恰好な形になってしまいました。これは完全に僕の落ち度です。
もし続編ができたら、アニメ放送期間中のキャララジオ(という名の本編延長戦)に関してはアニメ本編の制作チームで作れるよう制作環境を整えたいと思っています。
上記の理由により、用意していたつもりでいたコアユーザーさんたちへの3段階の救済のうち、ふたつ目(唯一無料視聴できるもの)が救済としては機能しない状態となってしまい、一段飛ばしで特典オーディオCDに飛びついていただかないといけないという険しい道を用意してしまいました。大変申し訳ありません。
でも皆さん安心してください!大ボリュームの特典CDはいつも通り面白く、とてもとても聴きごたえがあります!
あなたたちが欲しているものはきっとそこにあります!
ぜひ迷いを捨てて、思い切り助走をつけて飛びついてください!
次回に続きます!
January 9, 2019 | 固定リンク
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