こんなに切ないWebプロモーションは、見たことがありません。
吉野家の豚丼のプロモーションサイトです。ご存知の通り現在吉野屋は、安価な牛肉が手に入らないなどの理由で牛丼の販売を中止しており、豚丼はその代わりとして出てきたメニューです。
しかし、「豚丼があるからしばらく牛丼なくても大丈夫だね」という声は一向に聞かれず、吉野家の業績は下がったまま。もしかしたら会社全体の危機にあるのかもしれません。
そこで、「みんなに豚丼をもっと好きになってもらおう」と、このサイトを作ったのでしょう。「Booちゃん」というキャラクターを立てて、可愛く親しみやすい豚丼のイメージを定着させ、牛丼に代わる定番として根付かせようと思ったのでしょう。
その想いが、強すぎたのでしょう。
結果としてこのサイトは、全体として、「『吉野家の命運』という重い重圧を背負わされた可愛らしい豚が、なんとか皆に好かれようと、涙ぐましい奮闘を見せる」という、感動モノのFlashサイトに成り下がっています。
その悲しみは、いきなり最初から訪れます。アクセスすると、Booちゃんが大喜びで、こう宣言します。
Booちゃん、本当は痛いほど判ってるんだよね。
みんなが「牛丼が食べられないから、仕方なく豚丼を食べてる」ことを。
自分はしょせん一時の気休めに過ぎず、決して牛丼のような人気者になることができないと言うことを。
でも好きになってほしいから、諦めきれないから、空元気を装って、「僕らに愛されて嬉しい」フリをするんだね。
切ないっ!
まるで少女マンガのようです。素敵な彼女がいるあの人を好きになってしまった私。でもあの人を悲しませたくないから、いい友だちでいようと、精一杯明るく振舞うの。
Booちゃん、なんて悲しいキャラクターなんでしょう。その悲哀は、同サイトのあちこちで見かけることができます。
いつも笑って、「僕はキミのことが好きだよ」とアピールし続けるBooちゃん。
Booちゃんプロフィール。ほのかに見え隠れする牛丼(Gyuちゃん)へのライバル心。
様々な愛くるしい表情を見せて、少しでも僕たちの気を惹こうと奮闘するBooちゃん。
こ、これは……(絶句)! Booちゃん、キミはこの後自分がどうなるか、十分すぎるほどよく知っててなお……
たった一人で、豚丼を応援し続けるBooちゃん。その表情が勇ましいです……
Booちゃん、可愛いですよね……いじらしくて。けなげで。一生懸命で。
極めつけは、メニューからメニューへと移動するときに出てくる、Booちゃんのひと言です。
以下に列挙します。
「きっと食べたくなるブー。」
「キミの声が聞きたいブ。」
「もっと一緒にいたいブー。」
「もっとぼくのファンになってくれるかな?」
Booちゃん! もういいから!
そんなに頑張らなくていいから! もう判ったよ! お願いだから無理しないで!
涙で目がかすんできました。
このBooちゃん、牛丼が復活すれば、泡のように消えていく運命なんでしょうね……
彼がこれほどまでに強く強く「牛丼の代わりになりたい」と思っても、それは叶わぬ夢なんですよね……
明日は豚丼を食べようと思います。Booちゃんを想いながら。
第5の男
高木 ブー (著)