ただひたすら圧倒され、一気に読みきってしまいました。
ぜひオススメしたいと思います。まずはこの写真を見てみてください。
インディアンのとある一支族に伝えられているこの口承史は、彼らの祖先が朝鮮~日本一帯から、ベーリング海峡を渡ってアメリカ大陸へと移住した一万年の歴史、そして出アフリカを含めると、なんと10万年の歴史を、今に伝えているようなのです。
一万年の旅路―ネイティヴ・アメリカンの口承史
ポーラ アンダーウッド (著)
物語は、1万年前からはじまります。このときこの一族は、朝鮮~琉球、日本列島辺りに住んでおり、温暖な気候の中、大いに繁栄していました。
しかし突然、大地震と火山、そして津波が襲い、一族の大半が死に絶えてしまいました。
残ったのはたった35人。そしてこの35人は、総力を結集し、シベリアまで歩き、氷河期が終わろうとしているベーリング海峡を渡ることを決意します。
仲間全員を太いロープで結び、ほぼ溶けかかっていたベーリング海峡を超える。その後アラスカからカナダ、アメリカと歩き続け、大陸を横断し、最終的にはオンタリオ湖(現イロコイ連邦のある場所)にたどり着く。
本書の大半はこの1万年の歴史の中で、一族がどのような試練にあい、それをどのように克服してきたかという面に割かれています。少人数で、どれが食べられてどれが毒かも判らないような、なじみのない土地に行かなくてはならなかった彼らは、持てる力を最大限に生かす術を身につけます。つまり、
- 男女平等。区別はなく、それぞれできることをやる
- 老人の意見を「古き知恵」として重視する
- 子供の意見を「新しき知恵」として重視する
- 必ず全員が意見やアイディアを出す。つまり直接民主制
これらの伝統は、その時々の状況で柔軟に変化しながら、イロコイ連邦(現在もインディアンが居住している)へ引き継がれ、現合衆国憲法制定にも大きな影響を与えているとのことです。
それと、この本には、1万年よりさらに前、10万年以上の昔の話も、伝えられている限りのことが書かれています。
彼らの祖先は、1万年前の大災害により、そのほとんどが死滅し、同時に知恵や経験、物語も消えそうになっていました。この悲劇を教訓として、今後彼らは、次世代に「自分たちの物語を、知恵を、知識を伝えていく」ことを、最重要事項と考えるようになります。
そんな彼らが、大災害の生き残りの中で、昔の物語を覚えているたった1人の人物から受け継いだ口承史。
それが、今から10万年前、アフリカの砂漠化に伴い、ヨーロッパへ移動し、それからもユーラシア大陸を東へ東へと歩き続けた、とある民族の物語でした。
この物語が語られる間に、
- 人間から体毛がなくなっていった話
- 旧人との縄張り争い
- 最初に衣服を発見した話
- 最初に「絵」を思いついた話
- 最初に農業を思いついた話
もうね、とにかく壮大ですよ。
何万年も昔の、大自然の中で真剣に生きる人の息遣いが感じられるようで……何だかものすごく重大なものを読んでしまっているのではないか、という気持ちがぬぐえません。
自分がケタ外れの時の流れにいることを、感じずにはいられません。
しかも、神話の類のようなおとぎ話じゃないんです。極めて現実的な話ばかり。
この物語には、宗教的な要素がほとんどありません。これはストーリーの形式で語り継がれてきた「ハウツーもの」なんだと思います。著者はこう語ります。
昔から語り部の役割は、一族が大きな転機にさしかかったとき、それまでの来歴をあらためて正しく物語り、自分たちが何者なのか、どんな旅をしてきたのかを思い出させることによって、未来への適切な決定や選択を助けることなのだ、と。
口承史が何なのか、妙に納得のいく説明だと思いませんか?
この本、本屋にも普通に売っているし、図書館にもけっこうあるみたいです。ぜひ一度読んでみてください。
ちなみに僕の中では、今、にわかにインディアンブームが巻き起こりつつあります。