大人になる瞬間って、いくつかあると思うのですが、
そのうちの1つに、
「他人の嘘を許してあげたとき」
っていうのがあると思うんです。
僕の場合、それは小学3年生くらいのときでした。
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ルービックキューブは、キューブを回して、それぞれの面に同じ色を集めるゲームです。
1面を1色に染めるのは簡単なのですが、その後が難しく、6面そろえる方法は、数パターンしかありません。
6面そろえられた人は、神と崇められていたので、みんな目指していました。
しかし、インターネットも携帯電話もない時代、情報交換手段は本当に限られていて、だから、達成できる人は、ほとんどいませんでした。
そんなある日。
あいつ、名前なんて言ったかな……岩崎だったかな……彼と、ルービックキューブについて話していました。
岩崎は、こう言いました。
岩崎:「ほんと、あとちょっとなんだけど、どうしても6面そろえられないんだよなー」
岩崎は、いつもちょっと頭のいいことを言って、同級生や大人をギャフンと言わせるのが好きな、そんな男の子でした。
当時僕は1面しかそろえられなかったので、
僕:「へー、でも1面以上そろえられるだけで、すごいよー」
とかなんとか言っていました。
岩崎は、こう言葉を続けました。
岩崎:「5面まではそろえられたんだけどなー。あと1面なんだよなー」
ご~め~ん~は~あ~り~え~へ~ん~や~ろ~。
5面そろったら、自動的に6面そろうやろ~。
僕は瞬時にそのことに気づきました。
でも……
まあ別にここでそれを指摘したって、何かいいことがあるわけではないし……
それに、今気持ちよく会話できてるし……
岩崎だって、悪気があって言ってるわけじゃないし……
そして、僕は、岩崎のその一言を、笑顔でそのまま受け流しました。
その瞬間、僕は大人への階段を昇りはじめたんだと、今思い返すと、そう思います。