めりくり! で、本当はクリスマスにちなんだ話を書くのがいいと思うのですが……
思いつかなかったんで、プレゼント代わりに、確か今くらいの季節の思い出話を書こうと思います。
小学6年生の頃の話、非常に人付き合いが苦手で、基本的に孤独。
毎日遊ぶような友だちはほとんどいなくて、軽くいじめられてもいたころの話です。
とにかく当時の僕には、人とのコミュニケーションの取り方がよくわかりませんでした。どうしたら他者と仲良くできるのか、まるで見当がつかない。
それに、全然自分に自信がありませんでした。スポーツは苦手。喧嘩も弱い。面白いことも言えない。勉強も普通。そして太っていました。
だから自分が人に好かれるという気が全くせず、だから余計にビクビクしてました。
世界や人が多様なことも知りませんでした。学校と家と1つか2つの習い事だけが世界の全てでした。そしてどこでも僕は友だちを作れませんでした。
上手に人とやってる同級生に憧れて、ほんの少しだけ真似してみて、けれど想像してたのと違った反応が返ってきてビビり、またすぐ殻にこもってしまう、そんなことを繰り返していたように思います。
そんなある日。
公文の帰りに、松岡という、数少ない友だちの1人と、自転車に乗りながら話していた時。
僕はその時、当時自分につけられていた「胴長短足四頭身」というあだ名について、松岡に相談していました。
それを言われるのがすごく嫌なんだけど、でも僕は、太ってて、足が短くて、顔が大きいから、だから言い返せなくて……みたいなことを話していた記憶があります。
松岡は自転車に乗りながら、僕の話を聞いていました。
そして、前を見ながら、サラリと当たり前のように、こう言ったのです。
松岡:「でもさー、いちるは、格好いいと思うけどな」
え!?
僕は、ほとんど物理的といっていいくらいのショックを受けました。
今まで、そんなことを誰かに言われたことはありませんでした。何しろ胴長短足四頭身でネクラな僕です。間違いなく女子は全員僕のことが嫌いだし、男子もほとんどは僕のことなんか眼中にないはずなのです。
自分で鏡を見ても、たとえ一瞬でも「格好いいかも」と思ったことはありませんでした。
でも、松岡の言葉には、励まそうとか、心にもないことを言おうというニュアンスは感じられません。彼は本当に普通に、思ったことを言ったのです。
と、いうことは……他にももしかしたら、僕を見て、同じように思う人がこの世のどこかにいる可能性があるってこと?
言われた瞬間は、僕はものすごく混乱し、そして照れて、脳停止状態に陥ったので、そのまま黙ってしまいました。
だからその話はそこで終わったのですが……でもこの言葉は、その後ずっと、僕の心の深い深いところにこびりつきました。
正直に言うと、その後10年くらい、この言葉にすがって生きてきたようなところがあります。
僕は中学生になり、初日の自己紹介のときに清水の舞台から飛び降りるような覚悟で「面白くて元気な自分」を演じ、それからクラス替えの度に挑戦と失敗を繰り返し、少しずつ少しずつ、他者とのコミュニケーションの取り方を学んでいきました。
時々は、とても仲の良い友だちもできましたが……親友以外の人たちと「あ、普通に仲良く出来てる」と実感できたのは、かなりずっと後になってからのことでした。
なんで人と仲良くするのが、あんなに難しかったのでしょう? 単なる自意識過剰だったのかもしれないし、本当に僕がつまらなくてウザいヤツだったのかもしれません。そこのところは今でもよく判りません。
でも。
クラスで孤立してしまったとき。
塾や部活の仲間に溶け込めなかったとき。
バレンタインデーに1つもチョコをもらえなかったとき。
そうやって、人とうまくやっていけない自分をつらく感じたとき、僕はいつも松岡の言葉を思い出しました。
自分が格好いいとは思いませんでしたが、松岡の言葉に、完璧に砕けてしまいそうな僕の自尊心を、何度も何度もギリギリのところで救ってもらっていました。
彼の発した何気ない一言は、僕にとって、どんなに大切な宝物だったことでしょう。
かなり大人になった今、そのことを思い出して、改めて「一言の強さ」に驚かされます。
だから。
気が向いたときでいいんですけど。
人を褒めてあげたらいいと思います。
普段は全く褒められてなさそうな人を、褒めてあげたらいいと思います。
顔がいいとか頭が小さいとか声がいいとか手がいいとか発想がいいとか間の取り方がいいとかブログいいねとか絵が上手いねとか、思ったことを言ってあげたらいいと思います。
良いとことダメなとこを見つけたら、良いとこを口にして、褒めてあげたらいいと思います。
欠点や弱点は、本人もうすうす気づいてる場合が多いものです。わざわざ指摘してあげる必要性は薄いかな、と思います。
それよりも、ポジティブなことを言ってあげたらいいと思います。
励ますのではなく、改善点を教えてあげるのでもない。
今ある良いところを、ステキだと言ってあげるのがいいと思います。
大抵の人は、手放しで相手を褒めまくることに、照れを感じます。
そして褒め慣れていないので、「褒めの身体感覚」が身についていません。だからいつもタイミングを逃してしまい、後で「あー、あの時ああやって褒めておけば良かったなー」と思いがちです。
けれど、褒めのパワーは偉大です。その一言が人の命を救う事だってあると思います。
そしてたぶん、褒め慣れると自分も気持ち良いし、実際に周囲の現実をも良くしていくような気もします。
だから……「褒め」は身につける価値のあるスキルなのではないかなー、と、松岡のことを久しぶりに思い出しながら、僕はそんなことを考えました。
BASHAR(バシャール) 2006
ダリル・アンカ (著)